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「enigma」 だい。

「ENCIERRO」(牛追い祭実行委員会様) 寄稿 サンプル



「エニグマ」

「TRICK or TREAT!!」
ランボの横をパタパタと軽い複数の足音が追い越していく。
ちょうど、ランボの腰ぐらいの高さだろうか?
カボチャや魔女のファンタスミーノ(お化け)に仮装した子供達の後ろ姿を見送ると、最後尾の一回り小さい子供が、長いマントに足を取られてべちゃっと顔から地面にキスをした。丁度目的の家だったようで先に走っていった兄弟達は、火がついたように泣き出す弟に気づかずにドアを激しくノックして、歓声を上げている。
「大丈夫?ちょっと取る?」
仕方なくランボは抱えていた花束を傍らに置いて、彼を抱き起こす。膝をついたランボよりもまだ目線が低い彼は、オレンジのジャック・オー・ランタンの中でしゃくりあげていた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているであろう、彼の顔を拭こうとマスクを持ち上げるが、彼は必死にそれに抵抗する。
「̶̶外したら、お菓子、もらえない、から」
涙声ながらも、小さな両手でランボに抗っているから、ランボは深緑の眸を細めてハンカチを渡した。
「自分で拭きなね」
こっくりと肯く彼の頭をマスク越しに撫でて立ち上がったところで、背中から複数の子供達にタックルをされて、前のめりに倒れそうになる。
「オレの弟を泣かしたな!」
「ええっ!?」
理不尽な誤解だったが、一応兄らしい正義感に燃えている子供達に逆らうのもなんだし、とランボは両肩をすくめて、ポケットからチョコレートとキャンディーを取り出して彼らに振りまいた。
「次からちゃんと手を繋ぎなね。そうじゃないと、次は弟(シニョール)を連れ去っちゃうぞ」
大人げないなあと自嘲して花束を取り上げた。
「あ、あの、ありが、とうっ」
マスクを握りしめていた小さな手は、自分を庇う兄弟のマントを握りしめて、かわいいファンタスミーノが礼を言ってくる。
「男は我慢、だぞ」
無意識に出たその口調にランボの胸がくっと絞まって、マスクを撫でる手が僅かに震えた。
次の襲撃先に走る子供達を見送りながら、ランボは震える手で自らの胸を鷲づかみにして立ちすくんだ。
『うるせぇ、てめぇが男なら死ぬ気で我慢しやがれ』
『泣いてばかりじゃ、いい男になれねぇぜ、コラ』
『いつまで泣いてる!死んでもいいのか!立て!』
『大丈夫だよ、ランボ。怖くないよ』
『アホ牛!!またてめーかよっ』
『アハハッ、ランボは懲りないのな』
『ランボくん、今日はハンバーグよ、いっぱい作ったから慌てなくていいのよ』
『ランボ!特訓、する!』
『大人ランボ!ビアンキが来るから、早く逃げた方がいいよっ』
幾つもの声が風が吹くようにランボの体を通り過ぎる。十代半ばのある日、ランボはそれまで一緒にいた人達全てを失ってしまった。全員、ある日彼の前から姿を消した。冗談であって欲しいと幾夜願っても、何回太陽が昇っても誰一人帰ってくることは無かった。
ボンゴレ10代目とその守護者がいない今、ランボが背負う〝ボンゴレリング雷の守護者〞という肩書きはもう外してもいいものかもしれない。だけれども11代目がいないままであれば自分が最後の守護者なのかもしれないと、そう思うと外すに外せなかった。
『ランボがわかる年になったら聞こうと思っていたんだ、雷の守護者を辞めてもいいんだよ』
そう諭すあの時のツナ(10代目)は今の自分と変わらなかったのに、随分年上に見えた。
沢田家を始め10代目ファミリーはまるで本当の兄弟のように自分の面倒をみてくれていた。さっきみたいに自分が泣いていたら綱吉が必ず抱き上げてくれた。随分、分別がつかなかった自分は手がかかっただろう、と鼻の奥がつんとする。
いつの間にか、太陽は夕焼けに傾いていた。急がなきゃ、と誰に言うでもなくアドリア(地中)海を望む小高い丘へと続く坂道を登る足を早める。ボンゴレファミリーの墓地は敷地内にあるけれどそこには彼らの遺品は何も無かった。
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