「緋蜜」(「
陶酔と退廃」様) 寄稿 サンプル
「辱暑」 だい。
風は無く汗だけが流れる。どこの家も観念して格子越しの窓を開け放っているというのに、長屋の端の家はどこもかしこもまるで無人のようにぴったりと閉ざされていた。
「っふ、ぅん、あぁ…、も…や…あぁっ」
閉めきった部屋の中では獄寺がその夜で数回目の山本をその身に受け入れていた。蹂躙され尽くされた今は、ただのぼせてしまって身体中の力をくたりと抜いて全てをさらけ出して山本に揺らされるがままか細い声を上げさせられていた。散々犯された後孔は山本の男根を受け入れて尚も腰を持つ山本の手の両の親指で広げられていた。
「女みたいに絡みついてくる。あぁおまえ、女とは遣ったことないんだよな」
「ひぃぃっ!!…やっめ…」
広げた親指をず、と孔に差し入れると新しい刺激に獄寺は背筋を反らせて、浮き上がる肩胛骨の脇の窪みの汗が緋色の布団に流れる。前を縛られて達くことができないままもうどのぐらいたったか?のぼせるように暑い夜と体内で出口を求めて暴れ狂う熱が解放を求めて身体中を敏感にする。山本は俯せに緋色に銀糸を撒き散らす獄寺の上体を抱き起こすと、汗の玉が浮く項をぞわりと舐める。抱きかかえられ、汗で背中の毛穴一つ一つが山本と繋がったような錯覚を覚えて獄寺は宙に嬌声を散らす。
「蛍」 つねみ
茜色に染まっていた西の空は、いつしか紺青に変わっていた。疎水を引き込んでいる庭を望む縁側の硝子戸は全て開け放たれていて、先程までは夕陽が座敷を赤く染めていたのだが、今はすっかり薄暗くなっていた。座敷の電灯は灯されておらず、側に古風な行灯がぼんやりと灯っている。俺は自分を連れてきた男の横顔をチラリと眺め、漏れそうになる溜め息を飲み込み杯の中身を空けた。酒を飲み始めてから特段話すことも浮かばなかったのでこちらから声をかけることもせず、また男の方も口を開くことはなかった。宿の浴衣に着替えた俺と薄墨の着流し姿の山本は、お互いに手酌で飲みながら膳の肴に手をつけている。
機嫌は良さそうな山本の顔をもう一度見ると、今度は隠すことなく溜め息をついた。
――俺は何をしてるんだ。
この男と知り合ってから暫く経つ。以前は律儀に毎回電話で呼び出してきていたが、最近では何の前触れもなく現れることが増えた。今日も仕事を終えて職場を出てきたところを山本に捕まり、文句を言う間も無く近くに待たせてあった車に押し込まれた。問い質そうと睨み付ければ、運転手の死角で手を捕られ、柔らかい指の股を繰り返し撫で擦られた。口を開けばあられもない声になりそうで、俺は唇を噛んで耐えるしかなかった。
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