十二月十八日(木) カターニア 午後二時
「ドン・ボンゴレ、沢田綱吉。麻薬密輸の疑いで拘束いたします」
赤と緑で飾り付けのされたレストランを出たところだった。
シチリア島はカターニアの繁華街のド真ん中。周囲を屈強なSPで固めたボンゴレ10代目沢田綱吉の前に、憲兵であるカラビニエリの制服が並んでハイヤーへの通路を塞いだ。
街中がクリスマス前の華やかな空気に包まれた中、突然の出来事だった。
ハイヤーに先行していたボンゴレファミリー秘書室長のケルビスも、綱吉の背後に控えていたボディガードのリボーンも為す術は無かった。
目を見開いた綱吉は視界の端で二人の様子を捉え前触れの無かった突然の事だと知る。というのも一週間前にプロボクサーの笹川了平がアメリカ当局に拘束されていたからだ。ドーピング検査から発覚した、綱吉と同じ麻薬密輸の疑いだった。完全なる冤罪の背後関係を調査しているところだったが、何れはボンゴレ本体に関係してくるものと予想されていた。しかし、こんな早急にそれも綱吉自身を狙ってくるとは想定外だった。
こういう状況でこそ冴え渡る綱吉の第六感は目前のカラビニエリ達からは黒い思惟は感じなかった。ただただ、綱吉を襲うかのような、すさまじい緊張感だけが伝わってきた。彼らが無理矢理にドン・ボンゴレを拘束するのではなく、正当な手段だと信じているということは、綱吉がここで暴れても公務執行妨害として罪を重ねるだけだと読み、自分を庇おうとする部下全員を片手を挙げて止めた。
掲げられる捜査令状を受け取るために綱吉は手袋を外した。
さりげなく手袋の中に大空のリングを残し、もう片方には自分の携帯電話を忍ばせた。この電話には同盟・敵対ファミリーのボスのホットラインは元より、大切な友人達の情報が入っている。キーロックをかけられるとはいえ、当局の手に渡るということは余計な被害が広がる可能性だけが残った。
「持ってて」
何気ない仕草を装い、後ろ手で手袋を揃えて渡して捜査令状を受け取る。リボーンは綱吉の仕草の意味を心を軋ませながら読み取り、受け取る僅かな間にリングと携帯電話を自分の掌に落とし、隠した。
「判りました。抵抗はしません。どちらに参りましょうか?」
落ち着いた綱吉の声に対し、「ボス!!」とSP達の声が響く。
「全員本部に戻ってこちらの方々からの連絡を待つように。僕は大丈夫」
虚勢の笑顔なんてとうに身についている。
シチリアだけでなく裏の世界に広く名前を轟かせるボンゴレファミリーのボスを拘束するという、血で血を洗うような修羅場を覚悟していたカラビニエリ達が思わず横目で互いを見合わせるほど穏やかな現場だった。
「弁護士を呼ぶ権利もございますが、追って説明させて頂きます」
緊張を漲らせたまま、捜査令状を持つ男に頷きリボーンを振り返る。リボーンは握りしめていた空の手袋を綱吉に返した。
「――頼んだよ」
最後まで綱吉は誰の名前も呼ぶことはなかった。
エトゥネーオの怒り サンプル文 後
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