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 目覚ましの五分前に目が覚める。
 カーテンの向こうは今日も快晴らしく、鳥の囀りがしきりに聞こえてくる。傍らの愛し子は未だに夢の中らしく、シーツに埋もれるようにして目を閉じていた。光を弾くその髪をそっと撫でると、むずかるように小さく「んっ…」と声がした。
 柔らかい存在に思わず顔を緩めた後、彼を起こさないようにそっとベッドを抜け出す。もう一度小さな頭を撫でると、少しだけ見えている白い額に唇を寄せた。
 忘れずに目覚まし時計を止めておくと、山本はクローゼットからコットンシャツを取り出す。袖を通しながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中身を思い出しながら朝食の献立を考える。リビングのカーテンを引くと、遠くまで広がる青空が見えた。愛し子が起きてくるまではもう少し時間があるだろう。
——卵にベーコンに…バゲットは昨日帰りに買ってあるし。あとはアボカドにサーモン…いちじくが綺麗だったから買ってきたっけ。
 出来上がりの時間を合わせるように調整しながら、手早く朝食を作っていく。
 寝室のドアが開く音がした。今日は珍しく自主的に起きてきたらしい。大きめのパジャマのシャツの袖で、眠そうにしきりに目を擦っている。小さい頃からの習慣で、パジャマは上のシャツしか着ていない。
「おはよう、隼人。顔を洗って、着替えてきたらどうだ?」
「…めんどくせー」
 そして軽く持ち上がったその裾からは、今では可愛らしい膝小僧と真っ白な太ももがチラリと見える。スリッパの音を立てて洗面所に消える後ろ姿を眺めて、山本の口からは思わず溜め息が零れた。

 隼人はプランツドールだ。
 プランツドールは、本来一部の限られた人間にのみ知られている存在だ。購入するにしても維持するにしても莫大な金額を要することもあり、金銭的に余裕のある人間にしか手に入れることができない。しかし、その一方で育成するのが非常に難しいことでも知られ、多くの人間にとっては都市伝説にも等しいものだった。
 出張先で偶然彼と出会った山本は、まだ小さかった隼人を一目で気に入り、そのまま一緒に連れてきてしまった。マフィアの幹部とはいえまだ若かった山本にとっては驚くような金額だったが、何故か全く躊躇うことがなかった。そして、彼にとってかけがえのない存在になるのに、時間はかからなかった。
「…おはよ」
 テーブルにオムレツを並べていると、さっぱりとした表情の隼人が戻ってきた。相変わらずシャツ一枚の姿で、そのまますとんと椅子に座る。前髪に残った水滴を、山本の長い指が掬い取る。
「おはよう、隼人。せめてハーフパンツでも…」
「どうせ出かけるのにまた着替えるだろ?めんどくせー」
「だがなー」
 隼人は、目の前にオレンジジュースを置く山本を睨み付けた。
「てめぇだってパジャマにシャツ羽織っただけじゃねぇか」
 そう言われると、ボタンを二つだけ留めた格好の自分も自慢出来るモノではない。しかし、それとこれとでは話が若干違うのだ。
 なおも難しい顔をしている山本から、ぷいっと視線を反らす。
「座ってしまえば変わらねぇだろ。それよか腹減った」
 毎朝繰り返される同じような会話に山本が思わず溜め息をつくと、何故か隼人は小さく眉を顰めた。
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